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大阪高等裁判所 昭和49年(ラ)33号 決定

抗告人(原審債権者) 大岩根節夫

主文

原決定を取消す。

理由

一  抗告の趣旨および理由

別紙記載のとおりである。

二  当裁判所の判断

金銭債権に対する強制執行の過程において、被差押債権につき権利主張をなす者が競合した場合、第三債務者に対して債務額供託の権利又は義務が定められ、(民事訴訟法六二一条一、二項)、第三債務者が債務額を供託し、その事情を執行裁判所に届け出る(同条三項)ことによつて債務者と第三債務者間では弁済したものとみなされて被差押債権は消滅し、債務者と債権者間では債務者が取立命令によつて債権を取り立てたと同じ効力を生じ、爾後は執行裁判所の保管する供託金について配当手続が実施されるに至るものである。したがつて、本件債権について取立命令を得た抗告人としては、第三債務者・株式会社住友銀行のなした本件事情届が原裁判所に受理されるかどうかについて利害関係を有するものであるから、これにつき原裁判所の処置に不服であれば、民訴法五五八条、五四三条三項により即時抗告の申立も許されるものというべきである。

本件記録によれば、債務者・伊賀野英雄が住友銀行に不渡処分回避のため預託した金二五万円の返還請求権を被差押債権として、債権者・株式会社昭南アルミサツシセンターの債権差押転付命令(請求債権額二五万円)が住友銀行に送達されたのが昭和四八年一〇月二日一一時三〇分であり、一方、抗告人の差押取立命令(請求債権額一〇〇万円)が住友銀行に送達されたのが同日一四時四五分であること、右差押転付命令については、更に、債務者の氏名の更正決定が同月二五日一二時一〇分に住友銀行に送達されていることが認められる。したがつて、本件被差押債権については、昭南アルミサツシセンターの転付命令が抗告人の取立命令に先行しているから、法律上は一応、差押の競合があるとはいえないが、右のような場合、第三債務者又は同債権者において、差押競合の有無について適確な判断をすることは困難であるから、民事訴訟法六二一条一、二項の類推適用により、住友銀行が債務額(二五万円)を供託することも許され、かつ、記録上、抗告人が債務額の供託を求めていることが窺われる本件においては、住友銀行に債務額を供託すべき義務があるものと解すべきであり、本件事情届は、執行裁判所がその受理を拒絶すべき理由はないといわなければならない。

よつて、原決定は不当であるからこれを取消すこととし、主文のとおり決定する。

(裁判官 仲西二郎 三井喜彦 福永政彦)

(別紙)

抗告の趣旨

「原決定を取消す。」旨の裁判を求める。

抗告の理由

一、(原決定)

債権者抗告人、債務者伊賀野英雄間の大阪地方裁判所昭和四八年(ル)第二二四四号(ヲ)第二三六二号債権差押取立命令事件及び債権者株式会社昭南アルミサツシセンター、債務者伊賀野英雄間の大阪地方裁判所昭和四八年(ル)第二二八六号(ヲ)第二四〇四号債権差押転付命令事件の各第三債務者である株式会社住友銀行は民事訴訟法第六二一条により差押債務額を供託の上右裁判所に事情を届出た。

右裁判所は一旦昭和四八年(リ)第三四八号配当手続事件として配当手続を開始したが、その後昭和四九年一月二六日右第三債務者がした事情届について、事件事情届は、受理しない、との決定をなした。

二、原決定の理由

抗告人を債権者とする前記差押取立命令は昭和四八年一〇月二日一四時四五分に第三債務者に対して送達せられたが、昭南アルミサツシセンターを債権者とする前記差押転付命令は昭和四八年一〇月二日一一時三〇分に第三債務者に対して送達せられており、従つて右転付命令送達後に送達となつた抗告人の差押取立命令はその効力を有しないから右第三債務者が事情届の理由とする債権差押の競合はなく配当手続の必要はないということである。

三、不服の理由

抗告人の債権差押取立命令は昭和四八年九月二六日発せられ郵便により第三債務者に送達せられた。

昭南アルミサツシセンターの債権差押転付命令は三日後である同月二九日発せられ同様に郵便により第三債務者に対して送達せられた。

同一の裁判所が、同一の第三債務者に対して、同一の方法をもつて送達したところ、三日後の命令が先に送達せられたから、これにより三日前に発せられた命令はその効力を有しないというのは甚だ不合理な結果である。

送達は裁判所が職権をもつてするのであるから、右の債権差押命令もその送達は一切裁判所の権限及び責任において行われて差押債権者には何等の責任もない。

にも拘らず右のような全く不合理な理由に基いて差押の効力はないとする一方的な宣言は甚だ無責任であり正義に反する。このような裁判に対して何人も、その裁判を信頼し、納得し、これに服することはできないであろう。

よつて原決定の取消を求める次第である。

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